モダンでクールな雰囲気を持つ「コンクリート打ちっぱなし」の内装は、店舗デザインの中でも高い人気があります。しかし、デメリット面を知らずに、見た目だけでコンクリート打ちっぱなしデザインを選んでしまうと、お客さんも従業員も過ごしにくい店舗になりかねません。コンクリート打ちっぱなしの魅力を活かした居心地の良い店舗を作るためにも、コンクリート打ちっぱなし構造の特徴や、メリットとデメリットを知っておきましょう。
コンクリート打ちっぱなしは店舗の演出に最適
コンクリート打ちっぱなしとは、枠に流し込んで固めたコンクリートを、内装材や塗装でコーティングせずあえて剥き出しの状態で残すデザインのことです。お店のコンセプトとコンクリート打ちっぱなしの雰囲気がマッチすれば、内装デザインでお客さんを呼びこむことも不可能ではありません。
コンクリート打ちっぱなしが持つ魅力
木や土などの天然素材がカントリー風の暖かい雰囲気を演出するのに対し、コンクリート打ちっぱなしのデザインは、近代的でクールな雰囲気を放ちます。
一方、コンクリート打ちっぱなしはクールな雰囲気とは対照的に、どこか素朴な雰囲気も持っている素材です。木材やファブリック材などと組み合わせれば、温かみのある居心地の良い空間も生み出せるでしょう。
コンクリート打ちっぱなし店舗のメリット
まずは、店舗をコンクリート打ちっぱなしデザインにするメリットを見てみましょう。
コンクリート打ちっぱなしは店舗が広く見える
仕上げ用の内装材が取り払われているコンクリート打ちっぱなしの空間は、躯体の限界まで面積を利用できるため、限られた店舗スペースでも店内を広く見せることができます。また、壁だけで躯体を支えているコンクリートの建物は、柱を設置する必要ないため、柱の凹凸で家具を置く位置や間取りが制限されません。
コンクリート打ちっぱなしの店舗は防音性が高い
重たいコンクリートは空気の振動を伝えにくいため、非常に遮音性に優れた店舗となります。外部の騒音を気にせず過ごせるコンクリート打ちっぱなしの内装であれば、音楽や映像もストレスなく満喫できるでしょう。
コンクリート打ちっぱなしは防火面も安心
コンクリートは耐火性も高く、1000度の炎に晒されても、2時間は熱で形を変えずに耐久性を維持します。建物の熱変形までの時間が長ければ長いほど、消火活動のあいだに、お客さんを避難させられる可能性が高くなるでしょう。
コンクリート打ちっぱなし店舗のデメリット
「打ちっぱなし」というおおざっぱな呼び方とは裏腹に、コンクリートは非常に繊細な素材です。メリットだけでなく、コンクリート打ちっぱなしのデメリット面も知っておきましょう。
コンクリート打ちっぱなし店舗の大敵は「湿気」
コンクリートは完全に乾燥しきるまでに長い年月を要し、手で触れられるほどの固さになって数年経っても、内部に水分を帯び続けている素材です。さらに、コンクリートは水分を吸収しやすい素材でもあるため、湿度が高い日はどんどん空気中の水分を取り込んでしまいます。築年数が浅い建物でも、コンクリート壁の表面にカビや結露が発生することがあり、使用中は常に換気や除湿、拭き掃除といった湿気対策が欠かせません。
コンクリート打ちっぱなし店舗は夏暑く冬寒い
コンクリート打ちっぱなし店舗の最大のデメリットは、夏は暑く冬は寒い空間になってしまうことです。
内装をコンクリート打ちっぱなしで仕上げると、室内壁側に断熱材を入れられないため、室内の空気がどんどん屋外に逃げ、夏は冷えにくく、反対に冬は温まりにくい店舗になってしまいます。また、コンクリートは、木材に比べると熱伝導率が高い素材です。熱伝導率が高い素材は、手で触れたときに体温が素材側に奪われやすいため、冬場はコンクリートの壁に近づいただけでヒヤリと感じてしまうでしょう。エアコンが適温に保とうとするための光熱費が経費を圧迫したり、過ごしにくい職場環境で従業員の士気を下げたりしないよう配慮する必要があります。
配線や配管を工夫しなければコンクリートの良さが失われる
内装材で表面を加工しないコンクリート打ちっぱなしの店舗では、電気の配線や給排水管なども剥き出しになります。剥き出しの配管もコンクリート打ちっぱなしの魅力の一部ですが、配管があちこちで乱雑に見え隠れした店内では、お客さんも落ち着いて過ごせません。店舗の内装をコンクリート打ちっぱなし仕上げにするときは、ケーブルの流れを統一したりケーブルボックスで隠したりして、配線が目立たないよう工夫してくれる内装業者にデザインを依頼しましょう。
コンクリート打ちっぱなしは低コストではない
躯体現しで仕上げるコンクリート打ちっぱなしは、内装材を購入せずに済む分、内装工事が低コストで済むように感じがちです。しかし、コンクリート打ちっぱなしの内装工事では、剥き出しの配管を収納する作業や、コンクリートに造作家具を取り付ける作業などのために、コストが膨らむ傾向にあります。
また、打ちっぱなしコンクリートではないテナントを、入居後に躯体現しにリフォームする場合は、内装材の撤去・処分費用やコンクリート表面の修繕費用などが追加で発生する点にも注意が必要です。さらに、除湿対策やエアコンの電気代といった開業後のランニングコストがかさむ点を考えると、打ちっぱなしコンクリートのデザインは決して低コストとは言えません。
コンクリート打ちっぱなしの魅力を活かすために
店舗デザインにコンクリート打ちっぱなしを選択する場合は、
● 業種がコンクリート打ちっぱなしの魅力を活かせること
● 開店後もコンクリートのメンテナンスを維持できること
の2点をクリアできているか検討しましょう。
コンクリート打ちっぱなしに適した店舗は?
コンクリートの無骨で重厚感のある雰囲気は、メンズ向けのファッション店やヴィンテージアイテムを扱う雑貨店によく馴染みます。また、コンクリートはスチール製の家具や装飾と組み合わせれば、まるで大人の秘密基地のような、インダストリアル感も演出できる素材です。ガレージ周りの工具やDIYキットを販売するお店であれば、商品が持つ「ワクワク感」をより引き出せるでしょう。さらに、コンクリート打ちっぱなしのグレーの壁は、金属や鉱石などのアクセサリー類を豪華に見せる効果がありますので、ハイブランドのブティックなど高級感を演出したい店舗にもおすすめです。
コンクリート打ちっぱなしが不向きな店舗
無骨でワイルドな雰囲気のコンクリート打ちっぱなしは、使い方を誤ると、店舗だけでなく商品やサービスの魅力まで落としかねません。
コンクリートは遮音性に優れた素材ですが、発生した音を屋外に漏らさず室内で反響させてしまうため、話声や店内BGMが響きやすくなってしまいます。また、熱伝導率が高いコンクリートの壁は、人が側に寄るとヒンヤリと感じてしまうため、会話を楽しみながら長時間座って過ごすカフェや美容室には、音や温度の問題で完全なコンクリート打ちっぱなしデザインは難しいかもしれません。ファブリックや木材などの別の素材を取り入れて、音の反響を抑えながら、断熱性の低さや冷たさをカバーする必要があるでしょう。
また、コンクリートは表面にシミや油汚れが残りやすいため、油料理の提供がメインの飲食店では、店内に残った油汚れの跡がお客さんに「不衛生なお店」という印象を与えてしまう可能性もあります。
コンクリート打ちっぱなしを長持ちさせるためのメンテナンス
コンクリートの質感や耐久性を長持ちさせるためには、日頃のまめなメンテナンスが欠かせません。結露が起きやすいコンクリート打ちっぱなしの店舗では、コンクリートが水分を溜め込まないように、
● 除湿器を使う
● 通気を徹底する
などの防湿対策を徹底しましょう。
また、打ちっぱなしコンクリートの表面を塗装で保護する場合は、「クリヤー塗料」による塗装が効果的です。クリヤー塗料とは、顔料が含まれていない塗料のことです。顔料付きの塗料と違って、上から塗っても下地を塗りつぶさないため、コンクリートの質感や色を保ったままコーティングが行えます。コーティング後の艶を抑えたい場合は、コンクリートに染み込んで内側から素材を保護する「浸透タイプ」の塗料を選ぶと良いでしょう。
コンクリートの油汚れや湿気のシミが目立たないように、化粧のように塗料で覆う補修工事は、「ファンデーション加工」とも呼ばれます。
おわりに
コンクリート打ちっぱなしには、他の素材には表現できない独自の魅力があります。しかし、ランニングコストやイニシャルコストの高さ、メンテナンスの煩わしさといったデメリット面を考慮せず選ぶと、過ごしにくく手入れが不便な店舗になりかねません。断熱性の低さや劣化しやすさといったデメリットを、メリット面でカバーできるように、店舗デザインの時点でしっかり工夫を凝らしましょう。