会社を設立し、役員になった人は、従業員としての給与ではなく、「役員報酬」を受け取ることになります。
役員報酬と従業員報酬には、単なる呼び方の違いだけではなく、税務上の取り扱いや、金額の決め方といったルールにも違いが存在します。
翌年納める法人税だけでなく、役員自身が支払う所得税にも影響する役員報酬について、会社を設立する前に、基本的な知識を身につけておきましょう。
役員報酬と従業員給与の違い
役員に支払う給与と、その会社で雇用している従業員に支払う給与は、金額の内訳と、会計上の取り扱いに、いくつかの違いがあります。
さらに、役員にボーナスを支払う時は、特別な手続きを行わなければ、会社にとっても経営者にとっても大きな不利益をもたらす恐れがありますので注意が必要です。
給与の内訳の違い
会社で働く従業員に対しては、その労働の対価として、「給与」が支払われます。この給与には、残業手当や休日手当などの諸手当も含まれます。
一方、役員には、会社から「役員報酬」が支払われます。この中には、残業手当や休日手当といった諸手当は含まれません。また、役員は雇用保険料を徴収する必要がないため、給与の内容にも反映されません。
損金算入の違い
法人税は、会社の利益に対し、損金を差し引いた金額に課税されます。つまり、損金として算入できる金額が増えるほど、翌年納める法人税を減らすことができます。
役員報酬も、従業員報酬も、会計上の取り扱いは「給与所得」です。そのため、役員報酬は、基本的には損金として算入することができます。ただし、役員報酬は役員個人の所得とみなされるため、報酬が高額になるほど、役員自身が納める所得税額も増えてしまいます。
また、後ほど詳しく解説しますが、役員報酬が損益として認められないケースも存在します。
ボーナスは役員報酬に含まれない
従業員への賞与は損金として申告することができますが、役員へのボーナス(役員賞与)は、基本的に損金として処理することができません。
役員賞与を損金として算入するためには、「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署にしておく必要があります。
新規開業した会社では、届出は設立日から2カ月までとなっており、役員賞与の額を決定した日から4カ月以内、または事業年度の開始日から4カ月以内のうち、いずれか早い日です。
さらに、賞与の金額は、届出書に記載した金額でなければ、損金として認められません。
もし、事前確定届出給与を提出していなければ、役員が受け取ったボーナスは、役員の所得とみなされ、翌年の所得税が増えるだけという状態になってしまいます。
役員報酬を決める時のルール
会社法では、役員報酬は「定款」または「株主総会の決議」によって決めるよう定められています。(会社法第361条)
なお、合同会社の場合は、株主総会ではなく「社員総会」の決議で決まります。
株主総会で決める内容
役員報酬の金額が決まっていない場合は、算定方法を定めます。また、報酬が金銭でない場合は、何を報酬とするかを具体的に決めます。
また、役員ごとの報酬の内訳については、「取締役会」または「代表取締役会」が決めます。
なお、「株主総会」と「取締役会」の内容は、議事録を残しておかなければなりません。
役員報酬の決定期限
役員報酬は、会社を設立した日から、3カ月以内に定めなければなりません。事業開始直後となるため、会社を設立する前に、株主総会や社員総会のスケジュール、議事録の作成者などを、ある程度決めておく必要があります。
なお、会社設立、または事業年度の開始から3カ月以内であれば、その前に決めた役員報酬額を変更することも可能です。
役員報酬を決める時に注意すること
役員報酬は、原則として、1年間定額で支払います。このような形態の給与を「定期同額給与」と呼びます。
もし、年度の途中に役員報酬を変更すると、報酬額の一部が損金として扱われなくなってしまうため注意が必要です。
役員報酬を変更した時のペナルティ
経営状況の悪化などで、役員報酬を減額せざるを得ない時もあるかもしれません。しかし、役員報酬の変更は、増額・減額ともに、事業年度の開始から3カ月以内となっています。
もし、3カ月経過後に役員報酬の金額を変更してしまうと、最初に決めた金額に対し、増額・減額した分が、事業年度内の損金から除外されます。
例えば、事業開始時に50万円としていた役員報酬を、やむを得ず9カ月目に30万円に減額した場合、差額の20万円×9カ月分=180万円が、損金として扱われなくなってしまいます。
ただし、移動や昇格による増額や、降格や業績悪化による減額など、やむを得ない事情と判断された場合は、ペナルティが免除されることがありますが、必ず税理士と確認したうえで、減額・増額に踏み切りましょう。
おわりに
役員報酬の金額次第で、会社のお金の動きが大きく変わります。会社を立ち上げて間もないころは、収益に見合った報酬を設定しておかなければ、法人税や所得税の納税額が増えたり、減額せざるを得なかった時のペナルティが生じたりして、多くのデメリットを生むことになってしまいます。
適切な役員報酬額を最初に設定しておくことができれば、事業が軌道に乗り、安定した利益が生み出せるようになった頃には、役員報酬について悩む時間も少なくなっているでしょう。