事業を開始する前に発生した費用も、条件を満たしていれば、事業開始後に経費として処理することができます。
個人事業主の方であれば、開業前に発生した物件探しの費用や、家具や設備の費用も、経費にすることができますので、法人よりも節税対策が行いやすくなります。
事業開始後の会計処理の際、精算を忘れてしまわないように、開業費用になるものとならないものの違いを知っておきましょう。
開業費の考え方
まず、「開業費」は、個人事業主と法人では、取り扱いが異なることを把握しておきましょう。
法人の場合は、登記に要した費用が「創立費」に分類され、登記後に発生した準備費用が「開業費」となります。
また、法人の開業費は、「特別に支出した費用」であることが条件となります。家賃や従業員の給与、保険料や公共料金など、業務を行う上で通常発生する「経常費」は、開業費とは認められまれません。
個人事業主の場合は、経常費も開業費の中に含めることができ、さらに、開業にあたって登記手続きも発生しませんので、支払いのタイミングに関わらず経費にすることが可能です。
開業費用で所得税を調整
事業がスタートして間もないうちは、少額の所得税でも、大きな負担となります。この時、所得税を抑える強い味方となるのが、事業の準備のために発生した「開業費」です。開業費を正しく精算することができれば、所得税を大きく節税することができます。
しかし、開業して間もないころは、開業費を含めた経費の合計額が、所得を上回り「赤字」になってしまう恐れがあります。
この時、開業届とセットで青色申告の申請を済ませていれば、開業費を減価償却することができます。減価償却とは、資産の購入費用を、資産ごとに設定された法定耐用年数で按分して、数年かけて経費処理する会計方法のことです。
合計費用が10万円以上の開業費は「繰延資産」として扱うことができます。繰延資産は、全額を一括で償却することも、償却しないこともでき、さらに、任意の金額で数年間に分けて償却することもできます。そのため、赤字にならないように、利益に応じて償却額を調整することができるようになります。
開業費と認められる費用
個人事業主の開業費は、経常費も含めることができますが、いずれも「事業の準備に要した費用」でなければなりません。
オフィス探しに要した費用
法人では事務所の家賃は開業費にすることはできませんが、個人事業主であれば、家賃も含めて以下の費用も経費にすることができます。
・事務所の家賃や光熱費
・事務所の改装費用
・立地調査や物件内覧の費用(通信費、交通費、ガソリン代など)
このほか、物件内覧や改装などの打ち合わせで発生した、食事代やお土産代などの接待費も、開業費に含めて良いことになっています。
事業の準備に要した費用
事業をスタートさせるためには、様々な備品やビジネスツールを用意しなければなりません。これらの費用も、開業費にすることができます。
・名刺の作成費用
・印鑑の作成費用
・事業の許可や認可費用
・事務所の消耗品購入費用(ただし、1個につき価格が10万円以下であること)
・広告費用(看板・チラシ・ポスター作成費用、ホームページ作成費用など)
また、開業費用として金融機関から借入を行った場合は、借入利息も経費にすることが可能です。ただし、借入が事業に関係がないとみなされると開業費にできませんので、税理士にしっかり確認しておきましょう。
開業費に含まれない費用
個人事業主の場合、開業費の対象は広範囲に及びます。しかし、開業準備と直接関係がないものや、経費に該当しないもの、あるいは、別の会計処理が必要なものなどは、開業費としてまとめることはできません。
商品の仕入れ費用
客に提供・販売するために購入した商品の仕入れ費用は、経費に分類されますが、開業前に仕入れても、「開業費」の中に含めることはできません。
開業前に仕入れた商品の費用は、「仕入高」として、開業日の日付で、開業した年の経費として計上する必要があります。
10万円以上の固定資産
家具や設備などの固定資産は、原則として、減価償却しなければなりません。そのため、固定資産に分類される、10万円以上のパソコンや自動車、家具や機械などは、開業費に含めることはできません。
なお、固定資産は金額に応じて減価償却以外の方法を選ぶことができます。
まず、金額が10万円以下の固定資産は、「消耗品費用」として、年度内に全額を経費にすることができます。
また、10万円以上20万円未満のものは、減価償却することも、3年間に分けて均等償却することも可能です。
さらに、青色申告申請が既に済んでいれば、30万円未満の固定資産は、年度内に全額を一括で経費処理することもできます。
賃貸物件の敷金・礼金
敷金は、基本的には戻ってくるお金ですので、経費には分類されません。
また、礼金は、20万円以下の場合は、「地代家賃」として経費処理します。20万円以上の礼金は、繰延資産に分類されます。いずれにしても、開業費に含めることはできません。
おわりに
事業の準備期間は何かと慌ただしく、支払った費用の経費処理まで頭が回らないかもしれません。
しかし、開業費をうまく利用することができれば、事業スタート後の所得税を大きく節約することができ、経営で発生するトータルの出費を抑えることにも繋がります。
準備のために発生した費用の領収書やメモなどは、会計処理に備えてしっかり残しておきましょう。