個人で事業を始めるときは、個人事業主の開業手続きを済ませる必要があります。しかし、「開業の手続き」と聞くと、何をして良いかわからず、不安に感じてしまう方も多いかもしれません。
そこで今回は、初めて開業手続きを行う方向けに、申請の種類やそれぞれの書類の記入方法について解説します。
意外と簡単な個人事業主の開業
初めて開業手続きを行うときは、内容がイメージしづらく、難しそうに感じてしまうものです。しかし、事業の方向性さえ固まっていれば、手続き自体は驚くほど簡単に終わります。
個人事業主の開業に必要な書類
個人事業主の開業には、以下2種類の書類が必要です。
・個人事業主の開業、廃業等届出書
…管轄の税務署に、新たに事業を開始、または廃止する旨を届け出るための書類です。事業の所在地や、代表者の氏名、事業の内容などを記載します。
提出の期限は開業から1カ月以内となっていますが、事業開始と同時に提出できるよう、できるだけ早めに準備しておくと良いでしょう。
・所得税の青色申告承認申請書
…確定申告を青色申告で行うための書類です。提出は強制ではありませんが、青色申告には最大65万円の税控除があります。
事業開始後の最初の確定申告を青色申告にしたい場合は、開業日から2カ月以内に青色申告の申請を済ませておきましょう。
開業手続きの書き方
それでは、具体的な開業手続きの流れを見ていきましょう。
届出用紙を入手する
「個人事業主の開業、廃業等届出書」と「所得税の青色申告承認申請書」は、税務署で用紙をもらい、その場で記入して提出することもできます。
あるいは、国税庁のホームページから用紙をダウンロードし、記入済みのものを税務署へ持参しても、郵送でも申請することができます。
国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書」
http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
所得税の青色申告承認申請書」
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
「個人事業の開業・廃業等届出書」の書き方
以下は、平成29年4月時点の書式に元づいて、各項目ごとの書き方を説明しています。
(1)税務署長:管轄の税務署名を記入します。
(2)納税地:事業を行う事務所や自宅の住所を記入します。自宅が事務所の場合は「住所地」、住所地以外の家で事業を行う場合は「居所地」、事務所をかまえる場合は「事業所等」を選択します。
(3)上記以外の住所地、事務所等:納税地以外で事業所がある場合はこちらに住所を記入します。
(4)氏名:事業主本人の氏名を記入し、押印します。
(5)生年月日:事業主本人の生年月日を記入します。
(6)個人番号:12桁のマイナンバーを記入します。
(7)職業:飲食店経営、デザイナー、小売店など、職業の種類を記入します。
(8)屋号:会社名や店舗名などがあれば記入し、何もなければ空欄で問題ありません。
(9)届出の区分:開業手続きの際は、「開業」に丸をつけます。事業の引き継ぎを受けた場合のみ、住所・氏名欄に引き継ぎ元を記入します。
(10)開業・廃業等日:事業開始日を記入しますが、届出書の提出日でも構いません。
(11)開業・廃業に伴う届出書の提出の有無:青色申告承認申請書をセットで提出する場合は、「有」に丸を付けます。
(12)事業の概要:制作や販売など、事業の具体的な内容を記入します。
(13)給与等の支払の状況:開業と同時に雇用する従業員がいる場合に記入します。従業員が家族の場合は「専従者」、家族以外の場合は「使用人」の欄に人数を記入します。従業員がいない場合は空欄で問題ありません。
(14)関与税理士:既に会計処理を任せている税理士がいる場合は、氏名を記載します。いない場合は空欄のまま提出可能です。
「所得税の青色申告承認申請書」の書き方
青色申告の申請書は、開業届と重複する箇所がありますが、帳簿の種類や内容などを記入する必要があります。
(1)税務署長:管轄の税務署名を記入します
(2)~(6):「個人事業の開業・廃業等届出書」と同様です。
(7)事業所又は所得の基因となる資産の名称及びその所在地:個人事業主で店舗などがない場合は、「名称」は空欄で構いません。所在地には「納税地」欄と同じ住所を記入します。
(8)所得の種類:事業内容に応じて丸を付けます。
(9)青色申告承認の取り消し又は取りやめ:初めて申請する場合は、「無」に丸を付けます。
(10)1月16日以降新たに業務を開始した年月日:開業日を記入します。
(11)相続による事業承継の有無:該当する箇所に丸を付けます。
(12)簿記方式:青色申告の65万円控除を利用するためには、必ず複式簿記を選択しておきましょう。簡易簿記を選択すると、控除は最大10万円までとなります。
(13)備付帳簿名:複数の選択項目がありますが、確定申告で必ず提出することになる「総勘定元帳」と「仕訳帳」に丸を付けておけば問題ありません。このとき選択しなかった書類でも、実際の確定申告で帳簿に添付することができます。
(12)その他:特記事項があれば記入し、空欄のままでも提出することができます。
(13)関与税理士:「個人事業の開業・廃業等届出書」と同様です。
おわりに
開業手続きに必要な書類はすぐに揃えることができ、記入する内容も、事業の基本的な情報のみとなっています。
しかし、すぐに終わると思って書類の作成を後回しにしてしまうと、事業スタート時の慌ただしい時期に、書き損じや記入ミスで余計な時間を費やしてしまいます。
事業を営むことが決まった時点で、「個人事業主の開業、廃業等届出書」と「所得税の青色申告承認申請書」を必ず最初に入手し、余裕のあるときに漏れなく作成しておきましょう。