家族に、事業専従者として働いてもらった分の給与は、「青色事業専従者の特例」を利用することで、事業の経費にすることができます。
この制度を利用するためには、青色申告の申請を済ませておくだけでなく、青色事業専従者としての条件を満たす必要があるなど、いくつかのルールが存在します。
「青色事業専従者の特例」のしくみやメリットだけでなく、利用時の注意点を知って、事業の節税に役立てましょう。
専業従事者」に支払う給与に注意
「専業従事者」とは、事業に従事している、事業主の家族のことです。
「専従者」と表記されることもあります。
例えば、夫が個人事業主で、その妻や両親が、パートや正規職員として事業に関わっていれば、その家族は夫の事業の専従者となります。
従業員の給与と経費の関係
通常、従業員に対する給与は、事業で発生した経費とみなされます。
経費は、年間の所得から差し引くことができ、差し引かれて残った金額に対して所得税が課せられますので、どれだけ経費を把握して申請できるかが、所得税を節税するポイントとなります。
しかし通常、家族である専従者への給与は、事業の経費にすることができません。
つまり、専従者に給与を支払うと、支払った給与分の現金は減り、所得税だけは年間の所得に対してそのまま課税されるため、翌年の所得税の支払いが非常に不利になってしまいます。
このとき、「青色事業専従者給与の特例」の手続きを済ませておけば、家族への給与も経費にすることが可能です。
「青色事業専従者給与の特例」とは
青色申告とは、確定申告の種類のひとつです。
確定申告には、「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。
青色申告を行うためには、「青色申告承認申請書」を別途提出しなければならず、複式簿記による記帳の義務などが発生し、白色申告よりも手間がかかります。
しかし、青色申告には、最大65万円の所得控除という非常に大きなメリットが用意されています。
さらに、青色申告の申請を済ませていると、「青色事業専従者給与の特例」も利用できるようになります。
「青色事業専従者給与の特例」が利用できれば、家族は、「青色事業専従者」とみなされ、支払う給与も、経費として処理できるようになります。
なお、白色申告の場合は、「事業専従者控除の特例」の利用が可能です。ただし、配偶者の場合は一人につき86万円、それ以外の親族であれば一人につき50万円までという、控除額の上限が設定されています。
この上限に従うと、配偶者にはひと月あたり約7万円、それ以外の家族には約4万円までしか支払うことができないため、専従者が事業にフルタイムで関わる場合は、大きな節税効果が期待できません。
青色事業専従者の条件
注意しなければならないのが、家族だからといって、必ずしも「青色事業専従者」とはみなされないという点です。
青色事業専従者となるためには、以下の条件を満たす必要があります。
イ 青色事業専従者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
ロ その年の12月3日現在で年齢が15歳以上であること
ハ その年を通じて6月を超える期間、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること
参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|所得税|国税庁
「イ」の「生計を一にする」とは、一緒に住んで生活をしている、または生活費を共にしていることを意味します。
「ロ」では、6月、つまり半年以上、事業に従事していることが条件とされています。
「専ら」という字の通り、家族が既に、なんらかのパートやアルバイトで働いている場合は、「専従者」とみなされません。
もし専従者として登録する場合は、他の仕事を辞めてもらったうえで、6カ月以上事業に従事してもらう必要があります。
配偶者を青色事業専従者にする時の注意点
配偶者は、年間の合計所得額が150万円以下であれば、所得から38万円控除される「配偶者控除」という制度を利用することができます。
さらに、配偶者の年収が150~210万円の場合は、年収に応じて控除額は減額されますが、「配偶者特別控除」も用意されています。
これらの控除制度と、青色事業専従者制度は、同時に利用することができません。
そのため、青色事業専従者になった配偶者は、配偶者控除から自動的に外れることになります。
つまり、配偶者を青色事業専従者にした時、年間給与が150万円を下回ってしまうと、配偶者控除よりも節税効果が低くなる恐れがあるため、注意が必要です。
青色事業専従者給与の申請方法
「青色事業専従者給与の特例」を受けるためには、「青色申告事業専従者給与に関する届出書」を、管轄の税務署に提出しておく必要があります。
届出書の記載方法
届出書は国税庁のホームぺージからダウンロードすることができます。
参考:[手続名]青色事業専従者給与に関する届出手続|申告所得税関係|国税庁
用紙には、専従者の氏名と年齢、経験年数のほか、給与と賞与の支給時期と金額も記載する必要があります。
ここでは、実際に支給した金額を詳細に記入する必要はなく、支給予定額の上限を記載するのみで問題ありません。
届出書の提出期限
「青色申告事業専従者給与に関する届出書」の届出期限は、給与額を経費として申告する年度の、3月15日までです。
また、その年の1月16日以降に、
- 新たに事業を開始した
- 新たに専従者を雇用した
のいずれかに該当する場合は、どちらかが開始した日から2カ月以内が、申請期限となっています。
おわりに
経費として申告できる金額が増えるほど、翌年支払う所得税を節税することができます。
そのため、通常、経費にできない専従者への給与も、「青色事業専従者の特例」を利用して、経費に加えることができれば、大きな節税効果が期待できるでしょう。
しかし、年間で支払う給与額次第では、配偶者控除制度や、白色申告の「事業専従者の特例」など、他の控除制度を利用したほうが、結果的に節税に繋がるケースもあります。
ご自身だけでなく、配偶者や親族の現在の年収と、制度の特徴を照らし合わせて、利用すべきかどうかを慎重に見極めましょう。