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自宅を事務所にしている個人事業主が転居をする時は、住所や社会保険といった個人規模の変更手続きだけでなく、事業に関する手続きも発生します。開業後、初めて引っ越すことになり、仕事と並行して全ての手続きをきちんと行えるか不安な個人事業主の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、個人事業主が転居をする時に必要な手続きを、個人と事務所それぞれで簡単にご紹介します。記事の後半では、e-Taxとマイナンバーカードがあれば利用できる便利な届出方法も解説しますので、忙しい個人事業主の方はぜひ活用してみてください。
個人事業主の転居に必要な届出一覧
個人事業主は自宅を事務所にしていますので、転居をする時は、「自分の住所が移る事」に加えて、「事務所が移る事」も届け出る必要があります。
届出の方法について
次の項目から詳しく解説しますので、まずはどんな手続きが必要か把握しておきましょう。
自分の住所が移る事の届出一覧
・個人の住民票を変更
・国民健康保険の住所を変更
・国民年金の住所を変更
務所が移る事の届出
・納税地を変更
・開業届の事務所所在地を変更
・給与支払事務所の住所変更 ※専従者に給与を払っている場合
・新しい納税地に振替納税の申請 ※振替納税制度を利用している場合
転居が決まった時点で届出の準備に取り掛かろう
転居の手続きは、これまで事業を行っていた自治体と、引っ越し先の自治体それぞれで行わなければなりません。提出期限があるものも多いため、できるだけ早めに必要な書類を集めておきましょう。
また、遠方に引っ越す場合は、旧住所の役所を何度も訪れるのは大きな時間のロスです。個人事業主にとって稼働時間が減ることは収入が減ることと同義ですので、転居が決まった時点で届出の効率的なスケジュールを組みましょう。e-Taxを使えば、納税関係の申請が自宅で行えますので、転居前にe-Taxを導入するのもおすすめです。(e-Taxを使った申請方法は記事の最後に解説しています。)
税務署での手続き
まずは税務署で行う事務所の転居手続きについて見てみましょう。
個人事業主が事業所の住所を変える際は、税務署で手続きを行います。ただし、自宅を事務所にしている場合や、制度を利用している場合など、ケースによって手続きの種類は異なります。
自宅を事務所にしている場合(居住地と納税地が同一)
自宅を事務所にしている場合は、自宅の引っ越しはすなわち事務所の引っ越しでもありますので、個人と事務所それぞれの転居手続きが発生します。
「個人事業の開業・廃業等届出書」の住所変更届
事務所を移転すると、開業届に記載した住所も変わりますので、開業時に提出した税務署に変更届を提出します。期限は転居から1カ月以内です。
参考:国税庁『個人事業の開業・廃業等の届出書』(PDFが開きます)
所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書
事務所を移転すると納税地が変わりますので、これまで納税していた自治体に「所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書」を提出します。期限は設けられていませんが、なるべく早めに提出しましょう。
参考:国税庁『所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書』 (PDFが開きます)
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
※給与を支払っている個人事業主のみ
個人事業主で、家族やアルバイトを雇って給与を支払う場合は「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」を提出しなければなりませんが、転居の際はこちらも変更届が必要です。
参考:様式 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(PDFが開きます)
振替納税の変更申込み
※振替納税制度の利用者のみ
振替納税とは税金の納付方法のひとつで、管轄の税務署に口座振替依頼を届け出ることにより、自動的に税金が口座から引き落とされる制度です。振替納税を利用していて納税地が変わった場合は、必ず、転居後の税務署長宛てに変更届を提出しましょう。変更手続きを行わないと税金が引き落とされなくなり、延滞扱いになってしまう恐れがあります。
自宅と事務所の住所が異なる場合(居住地と納税地が異なる)
個人事業主で、自宅とは別に事務所を構えている場合は、自宅と事務所のどちらを転居するかによって必要な手続きが異なります。
自宅(居住地)のみ引っ越す場合
自宅のみ引っ越す場合は、個人の住所変更のみ行えば良いため、事務所に関する転居の手続きは発生しません。
事務所(納税地)のみ引っ越す場合
事務所を引っ越す時は、事業所の管轄が変わりますので、「居住地と納税地の住所が同じ場合」の見出しで紹介した各種届出が必要です。
自宅と事務所の両方を引っ越す場合
自宅・事業所それぞれの手続きが必要です。
役所での手続き
以下からは、自宅の転居に必要な役所での手続きをご紹介します。
転居によって住所が変わる時は、役所にて以下の住所変更手続きが必要です。
・住民票
・国民健康保険
・国民年金
住民票の変更手続き
住民票の変更手続きは、引っ越し先が同一市区町村かどうかで方法が異なります。
同一市区町村内に転居する場合
・転居届の提出
引越し後14日以内に、管轄の役所に「転居届」を提出します。
別の市区町村に転居する場合
・旧住所の役所で、転出届の提出
・新住所の役所で、転入届の提出
引越しの14日前になると、旧住所の役所に「転出届」を提出できるようになります。転出届を提出すると「転出証明書」がもらえますので、引越しから14日以内に、新しい住所の役所へ「転出証明書」と「転入届」を併せて提出します。
国民健康保険の手続き
国民健康保険も住民票と同様に、引っ越し先の住所がこれまで住んでいた市区町村と同じか別かで手続きの方法が異なります。
同一市区町村内に転居した場合
・国民健康保険の住所変更届け
転居から14日以内に、住んでいる自治体の役所で住所変更の届出を行います。届出の際は、国民健康保険証と、申請時に使った印鑑が必要です。
別の市区町村に転居した場合
・旧住所の役所で、健康保険の「資格喪失届け」
・新住所の役所で、健康保険の「加入届け」
どちらの手続きも、引っ越しから14日以内に済ませる必要があります。
なお、国民健康保険の資格喪失届けを提出すると、旧住所名義の保険証は回収されてしまいます。保険証が手元にない期間を短くするためにも、喪失届と加入届はなるべくまとめて行うと良いでしょう。
国民年金の手続き
国民年金の住所変更手続きは、同一市区町村かどうかに関係なく、引っ越し先の自治体窓口にて行います。引っ越しから14日以内に、転居先の役場へ「国民年金手帳」と、「被保険者住所変更届」を提出して手続きは完了です。
個人事業主が海外に転居する場合は特別な手続きが発生する
個人事業主が自宅も事務所も海外に引っ越す場合は、少し特殊な手続きが発生します。個人単位だと、健康保険や年金のほか、パスポートやビザの取得なども必要です。さらに、国内で行っていた事業に関する手続きも、出国日までに済ませておかなければなりません。
ここでは、個人事業主が海外に転居した時の、「事業の住所変更に伴う手続き」のみに絞って解説します。
個人事業主が海外に転居する時の事業関連手続き
日本国内で事業を行っていた個人事業主が、海外に転居する場合は、事業をいったん「廃業」する形にして各種手続きを行うことになります。
個人事業の開業・廃業等届出書
国内での事業を終えて1カ月以内に、事業管轄地の税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を廃業届として提出します。
参考:国税庁『個人事業の開業・廃業等届出書』(PDFが開きます)
所得税の青色申告取りやめ届出書
青色申告を行っていた場合は、事業管轄地の税務署に取りやめ届出書を提出します。提出期限は、国内での事業を終える年の、翌年3月15日までです。
参考:国税庁『所得税の青色申告取りやめ届出書』(PDFが開きます)
確定申告関連の手続き
海外に転居するまでに発生した所得と、海外転居後に日本で発生した所得は、日本国内で確定申告を行わなければなりません。海外転居時の確定申告の方法としては、「納税管理人の選任」と「準確定申告」という2つの方法があります。
・納税管理人の届出
出国前に、国内在住の「納税管理人」を選任して税務署に届け出ることにより、海外にいても、納税管理人が確定申告や税金の納付を代行してくれます。納税管理人の選任は、出国日までに行います。なお、納税管理人を届け出る税務署は、納税する本人の状況に応じて以下の順に判定します。
- 日本国内に事業所がある→事業所在地の税務署
- 1.以外で、出国日までにいた住所に親族が住むことになった→出国日までにいた納税地の税務署
- 1.~2.以外で、不動産収入がある→不動産所在地の税務署
- 1.~3.以外→直近で納税していた税務署
- 1.~4.以外で、所得税の申告や請求などを行った場合→申告や請求を行った納税地の税務署
- 1.~5.すべて該当しない→麹町税務署
参考:国税庁『所得税・消費税の納税管理人の届出書』(PDFが開きます)
・準確定申告
納税管理人を選任しない場合は、国内で発生した所得を「準確定申告」という形で申告する必要があります。
・準確定申告の対象となる所得:該当年の1月1日から出国日までの所得
・準確定申告の期限:出国日まで
なお、出国前に準確定申告を済ませていても、出国後から12月31日までに日本国内で発生した所得については、翌年の3月中旬までに確定申告を済ませなければなりません。海外滞在が1年以上など長期に亘る場合は、早めに納税管理人を選任しておくことをおすすめします。
e-Taxとマイナンバーカードがあれば個人事業主の転居も楽に
e-Taxを使えば、自宅のパソコンで確定申告を行えるようになります。しかし、e-Taxを利用するためにはマイナンバーカードとカードリーダーを用意しなければならないため、「マイナンバーカードを発行していない」や「カードリーダーをわざわざ購入するのが面倒」などの理由で、e-Taxを敬遠している方も多いかもしれません。
しかし、e-Taxでは確定申告だけでなく、個人事業主の転居に関する届出も行うことが可能です。
e-Taxなら個人事業主の転居に関する届出も自宅で行える
e-Taxの「申告・申請書の作成」画面では、個人事業主の転居に関するほぼ全ての届出が行えます。
e-Taxで作成できる個人事業主の転居に必要な届出一覧
・個人事業主の開業・廃業等届出
・所得税・消費税の納税地の異動に関する届出
・所得税の青色申告取りやめ届出
・青色専従者給与に関する届出(変更届出)
・所得税・消費税の納税管理人の届出
このように、本記事で紹介した届出のほとんどは、e-Tax内で作成可能です。
届出書の作成方法は、作成したい届出の種類をe-Tax内で選択し、画面に従って必要事項を入力するのみ。作成した届出書は電子署名として、e-Taxを通じて送信することができます。
書類を印刷して郵送したり、税務署に持参したりすることなく転居の届出が行えますので、遠方に引っ越す個人事業主や、忙しくてなかなか外出できない個人事業主の方は、ぜひe-Taxの環境を整えておくと良いでしょう。
おわりに
個人事業主の転居では、事務所の移転に関する手続きが増えるだけでなく、仕事の時間を削って手続きを済ませなければなりません同一市区町村に引っ越すのか、海外に引っ越すのかなど、転居先によっても手続きが異なりますので、仕事に支障が出ない効率のいい動き方が求められます。
転居が決まった時点で、必要な手続きの種類をリストアップし、余裕を持ったスケジュールを考えておきましょう。また、e-Taxを使えば、在宅でほとんどの届出を済ませることもできますので、転居を控えている個人事業主の方はこちらの導入を検討することもおすすめします。