お店を開くに当たって避けては通れない作業が、事業を行う物件選びです。店舗用の物件は、住宅用やオフィス用とは異なり、業種ごとの特性を考慮したうえで立地や設備を吟味しなくてはなりません。この記事では、飲食店・美容院・学習塾・介護サービス施設・物販店という5つの業種ごとに、物件選びのポイントについて解説します。
業種によって建物に求める条件は様々
同じ店舗用物件でも、開くお店の業種によって内覧時のチェックポイントは異なります。
メインターゲットで異なる営業時間と立地
例えば、若者向けの洋服を販売するお店は、大型商業施設の中や駅周辺、商店街の近くなど若者が訪れやすいエリアに店舗が集中しています。営業時間は、多くの人が自由に行動する午前10時~午後20時の間で設定されます。一方、居酒屋は、常連客を集めやすいオフィス街近くや飲み屋街の中などが好まれる傾向にあります。開店時間は午後18時以降と遅く、閉店時間に関しては深夜3時まで営業する所もあります。
業種によっては設備が不足することも
美容院や介護サービス施設など、水道の利用頻度が高い業種では、給排水管の大きさが毎日の使用に耐えられる大きさでなければなりません。また、飲食店では調理中の臭いが近隣住民から苦情を呼んでしまうこともあるため、排気ダクトの向き変更や、消臭設備の設置が求められるほか、調理時の油分を排水口に流さないためのグリストラップの設置などが義務付けられています。
このような、業種ごとに異なる物件選びのポイントについて、以下の項目でさらに詳しく見てみましょう。
飲食店の物件選びのポイント
数多くの店舗の中でも、飲食店はジャンルによって営業形態の違いが大きいため、物件もそれぞれの特性に合ったものを選ばなくてはなりません。
- カフェや喫茶店 カフェや喫茶店の客層は、学生、サラリーマン、家族連れなど、飲食店の中でも特に多様です。また、コーヒーや軽食を目当てに訪れる人だけでなく、商談や読書、待ち合わせの場所として利用する人もいます。そのため、利用者の平均滞在時間が長く、ある程度の座席数が確保できる面積がなければ、回転数を落とす恐れがあります。
- レストラン 1グループあたりの人数が多いレストランは、大人数でくつろぐための広い座席の確保はもちろんですが、大量の注文を準備するための広い厨房と貯蔵庫のスペースが必要です。また、移動手段として車をメインに使うエリアでは、5~10台以上は駐車スペースを用意しておかなければ、客足を遠ざける要因になってしまいます。
- 居酒屋 居酒屋は、メニューやドリンクの注文が頻繁に発生するため、余裕のある通路が確保できる面積があると良いでしょう。また、午前0時以降に酒類を提供する居酒屋では、「深夜酒類提供飲食店」の届出が必要です。しかし、物件の所在地が営業禁止区域内の場合、深夜の酒類の提供はおろか、届出を行うこともできません。
その他4業種の物件選びのポイント
- 美容院 美容院のメインターゲットは女性ですので、安心して入店してもらうためにも、通りに窓が面し、美容師と客とのやり取りが見える物件が良いでしょう。カットの後すぐにショッピングに出かけられる立地かどうかも押さえておきたいポイントです。注意点として、給排水管の大きさ・水圧がシャンプー台の使用に耐えられるか、シャンプー台設置によって床の高さが上がっても狭さを感じないか、それらの工事費用が発生しないかなども必ず確認しなくてはなりません。
- 学習塾 子どもを預かることになる学習塾は、保護者が安心して子どもを通わせられるような環境が適しています。小・中学校から徒歩で通える場所や、交通量の多い大きな道路に面していない場所、加えて、交番が近くにあるとなお良いでしょう。反対に、パチンコ店やゲームセンター、飲み屋街の近くなどは、当然ですが敬遠されてしまいます。
- 介護施設 老人ホームやデイサービスなどの介護施設用は、建築基準法や消防法など、多くの法の要件を物件がクリアしていなければ開業できません。さらに、介護施設に必ず必要な、車いす用のスロープや歩行時の補助手すり、介護用のお風呂やトイレなど、バリアフリー化リフォームが可能かどうかも調べておく必要があります。そのため、介護施設用の物件は、これらの条件に該当するものの中から自ずと選ぶことになります。
- 物販店 家具店や楽器店など、販売物を常時展示する店舗で、メインストリート沿いの1階の建物が適しています。運搬の手間を減らすために、車両の駐車スペースや運搬ルートも確保しておくと良いでしょう。一方、販売する商品が、アクセサリーやカメラなど小さい場合は、奥まった建物の2階、裏路地などでも問題ありませんが、集客のための看板を建物に掲示しても良いかオーナーに確認を取る必要があります。
おわりに
店舗用の物件は、住居用の物件と違って、様々な制限の中で探さなくてはなりません。業種によっては、客層・営業時間・立地だけでなく、必要な設備・近隣住人への配慮、目印の確保、法規制のクリアなどの条件も追加されます。業種ごとに必要な手続きやポイントを押さえ、開業資金の中からどの程度までならリフォームを行えるかも併せて検討し、納得できるまで物件を探して行きましょう。